代表者あいさつ

 私は心療内科医です。内科医でもあり総合診療医でもあり漢方医でもあり公認心理師でもあります。そんな無節操な、と思われるかもしれません。でも心療内科でも内科でも総合診療科でも同じように診察をして西洋薬も漢方薬も処方して心理療法をします。とはいえ一人の医者にできることは高が知れています。

 一般の方々だけでなく医療者も、何らかの症状を持った人を病名で理解しようとすることが多いように思います。この病気ならこの治療といった具合に、西洋医学は比較的分かりやすい姿で発展してきました。そして実際にほとんどの病気はそうやって治療されます。でも一部の人には、病名だけではとらえきれない個々の要因が大きく関係していることがあります。私たちはそのような状態を「病態」という言葉で理解します。そして体の痛みには、病名だけではなく病態に合わせた治療を行わなければ対処困難な場合がたくさんあるのです。

 一人ひとりの病態に合わせるということは、必要な医療や援助も多岐にわたるということです。それは私が行なっているよりもはるかに幅広いものです。そこでいろいろな専門家が集結あるいは連携して治療を進めていく「集学的診療」という医療が生まれました。2017年には「慢性疼痛診療体制構築モデル事業」が近畿地区を含む全国3地域で発足し、翌年には8地域に拡大しました。2020年には「慢性疼痛診療システム普及・人材養成モデル事業」と名前を変え、集学的診療を行う痛みセンターを核にそれぞれの地域の実情に応じた診療システムを構築すること、また痛み診療を担う人材育成を目標に活動してきました。

 私たちは病院勤務の医師だけでなく、開業医や産業医、看護師、理学療法士、作業療法士、公認心理師、社会福祉士、介護福祉士、健康運動指導士、栄養士、事務職など、痛みで苦しむ人に関わるすべての職種がチームの一員と考えています。そのような幅広いチーム医療の担い手を対象に、痛みの診療やケアに関する知識や経験を広げる「医療者教育セミナー」の開催、痛みセンターを核として開業医も含む診療連携ネットワークの構築を柱として、活動を行ってきました。その結果、モデル事業発足当初は2施設だった近畿地区の痛みセンターは9施設に増え、連携医療機関は130軒を超えています。そして2023年度からは「慢性疼痛診療システム均てん化等事業」として発展を遂げました。
 本事業ではこれまでの6年間のモデル事業で培った知見やシステムを活かして、慢性疼痛の集学的診療のさらなる質の向上および地域医療機関との連携、更には他地域との連携を強化し、医療者だけでなく一般市民への啓発活動にも力を入れていきたいと考えています。
 本事業の発展により、慢性の痛みで苦しむ人々が全国どの地域でも質の高い診療を受けられるとなりますように、ご協力のほどどうぞよろしくお願いいたします。
関西医科大学心療内科学講座
関西医科大学附属病院痛みセンター
水野 泰行